旬を保存で旬ではない時期に!?! 冷凍技術で季節感がなくなる?
旬って何?
と聞かれたら
一番実りがある時期と答えもしますし、一番美味しくなっている時期とも答えます。
日本料理の素材は概ね、3つの区分に分けられます。
- 走り ・・・ まだ出始めの希少性が高く、価格もかなり割高の頃
- 旬 ・・・ 広く世間に出回り、身に力を宿し、価格的には安価になる頃
- 名残り ・・・ その素材が終盤になる頃で、価格は走りに比べ安価になる頃
(走り・初物の話)
一つの例えで表しますと
かつお(鰹) 女房を 質に入れても 初がつお
なんて言葉がある位、江戸時代の初物鰹がお高かったんでしょうね。
いっけん、昔の人間の馬鹿げた話と思いきや、現代でも続いております。
毎年、年明けの築地市場内における鮪の初荷でのセリ!
近年の中での最高値
鮪 1本 150、000、000 円 也
ん? 0の個数はあってますか?
一億5千万です!
魚一匹がですよ!?!
もう狂気の沙汰としか思えませんでした。
当時お付き合いしていた市場内の鮪屋さんも
「あんなの鮪の値段じゃない! 価値が狂わないか心配だよ」
と言っておりました。
買う側には買う側のメリットがあり、どんなに高がろうが一番で競り落とす事に
意味があり、2番じゃ駄目だったのです。
あれ?
またどこかで聞いた事がある台詞ですが
1番でなければ意味が無いのです!
何故?
どんなに高い鮪だろうが、鮪は鮪!
ダイヤやレアメタルに変わるわけではないのです。
鮪の可食部位は、全体(丸)の約50%。
上記の鮪の場合の単純計算では、7千5百万分は不可食部位となります。
可食部位でも、筋が強く刺身には向かない部分などを除くと
さらに可食部分は目重さが減り、実質の価値は上がってしまいます。
それを分かった上での競り落とし!
理由は、宣伝広告費への費用対効果が高いと試算したから!
鮪1本競り落としたことにより、お昼のニュースからはじまり
夕方・深夜と全てのメディア(TV・新聞・ネット・ラジオ)の話題に上がり
翌朝までもメディアで取り上げられます。
しかも本年の暮れになれば再び話題が持ち上がり、次年度の初荷でも「去年は!」
という具合にトップニュース並みの扱いを受けます。
もしこれら全て自社広告を打ち出したら、いくらかかるのでしょうか?
一億5000万どころの額では収まりませんね。
きっとその何倍以上もかかるとおもいます。
江戸自体では近所長屋への「見栄」から、の初物食いもあったでしょうが
現代では、より世間に広くアピールする為の戦略へと変貌したようです。
経済ばかりが「初物追い」をするわけではなく、先人の知恵では
初物を食べると 寿命が75日延びる
と言った言葉もあります。
江戸時代の諸説ではありますが、2つご紹介します。
一つは、初物には生気が宿り、それを食すことで自身にも生気が宿り寿命がのびる。
二つ目は、死刑囚の最後の願いをかなえる温情制度があったから。
死刑囚は考えました。
「そうだ! この時期に食べれないものを願い出よう!」
当時はハウス栽培などありません。 今と違い、無いものはないのです。
死刑囚の思惑通り、死刑の期日は先延ばしになりました。
まぁ~俗説の一種ではありますが、
江戸時代の人間の平均寿命は40~50年と推測されていますので、
心身無事に時期折々の初物を食せる事が贅沢の一種であり、命への畏敬の念のあらわれであったのこも知れません。
(旬の話)
旬は物事の全盛期に辺り、実質的な部分で美味しい素材が出回り手に入りやすい価格帯で提供される。
(名残りの話)
この何十年の間に、走りも旬も名残りの存在自体も薄くなってきた気がします。
ハウス栽培・工場内栽培・遺伝子組み換え素材と、理由は様々ですが
私の考えでは冷凍技術の驚異的発展によるものだとおもいます。
CAS冷凍はごぞんじですか?
簡単に説明すると、
細胞の壊れ方が非常に少ない状態の解凍品になる。
(Cells Alive Sistem =3文字の頭文字をとりCAS)
細胞 生きる 構造
それが、走り・旬・名残りとはどのような関係があるのか?
それはずばり!
時期を外しても、いやむしろ極端な表現をするなら
2年前の旬の時期に収穫したりんごを「走りの季節」で販売できる!
さすがに、新物としての冠は打てないでしょうが、その時期の絶対個数はふえます。
そもそもの話として
走りの素材が高値になるのは、
- まだ数が出回っておらず希少性が高い。
- 市場原理による物価の高騰。
- 初荷を利用してのメディア戦略 等があります。
そこに去年以前とはいえ「旬の素材」ですので、味・サイズ・見た目の3拍子そろった
千両役者が参入するわけです。
走りには走りの良さがあります。(まだ未完ゆえ、旬への期待がしのばれる)
しかし、3拍子そろった千両役者が多く登場したら
「純粋な走り」の存在価値が薄くなってしまいます。
季節を味わって頂く和食においても
走りのちょっと手前になると業者から 「そろそろ こんなのどうですか?」
と商品の売り込みが入ってきます。
この時期なら、稚鮎(あゆの子供)の冷凍品とか・・・
ん? とよくよく見れば新物ではない。
いわゆる「寝かせた品」や、海外からの冷凍輸入品(日本と季節がずれる)です。
旬真っ盛りでは希少性も低くなり、高値もしくは言い値取引が弱くなるので
もっとも高値で販売しやすい「走り手前」での売り込みとなるわけです。
それを最も可能に出来るのが冷凍技術なのです。
一昔の冷凍品は、冷凍品だからねぇ~的な納得から使われていました。
しかしここ数年は、ヘタな生鮮品を使うなら品質の良い冷凍品を使う方が
高レベルで安定した仕事に繋がることも出てきています。
それほど品質が向上しているわけです。(魚・肉・野菜・調理済素材 等)
品質が上がれば、これまで冷凍品を扱わなかった事例でも扱うようになり、
自然ご家庭においても冷凍食品が食卓に登場するケースが増えていきます。
現状
冷凍技術の向上は食品業界、一次産業界にとっての命題としてこれまで技術開発
されていきました。
通常冷凍(-18℃程度)でも、3ヶ月程の保存が利き物もあります。
これがもし、全ての冷蔵・冷凍庫がCASクラスになれば、これまで生産過多により
トラクターで潰していた野菜達や、旬で多く取れすぎていた事により
流通から安く買い叩かれていた生鮮品など、本来の価値を損ねることなく
市場に流通することが可能となります。
(冷凍不向きな素材には、氷蔵庫で対応)
しかも旬な素材をです!
そのような過去には無い保存庫が現代にはあります。
文明の利器は、時間をもコントロールし始めたのです。
このような事は私たち人間にとって良い事なのか、逆に四季折々に育まれる恵みへの
感謝の気持ちの欠如に繋がるのかは分かりません。
ですが、いずれにしても素材を大切に扱う事が一番大切な事だと思います。
最後に
すでにCAS冷凍や氷蔵庫が使われた商品(一部)が流通しております。
そのことで時期問わず「旬の素材」を消費しています。
江戸時代の死刑囚の戦略が、もう通用しない時代になったのです。
日本の食品自給率と、食品廃棄率。
本当に現代に必要なことは一体・・?
便利と引換えに、何かが変わったのかなぁ~と職場のダストボックスを眺めながら
ふと思ったことを書かせて頂きました。
長々の記事になってしまいました。
個人的な思いを、最後まで読んで頂いてありがとうございました。
ささやかですが、自然の恵みです!
(グミの実)