黒毛和牛のトレサービリティー
少し前に「牛肉文化? 牛肉を考える! 格付け - 和食を簡単に!」の話を
書かせて頂きました。
私が普段仕事で扱うのは黒毛和牛なのですが、それがこちらです。
つい最近の入荷牛です。
私達が買う時は、大抵ブロックの状態の塊肉で買います。
正味重量に14,9kと記されています。
肉の前にはってあるのは、牛肉固体識別番号を提示したタグです。
平成16年12月1日から「牛肉トレサービリティー法」が義務付けられました。
トレサービリティーとは
生産者から加工、流通業者、小売店や外食や一般消費者まで、又は最終処分に到るまでの流通経路を追跡可能な状態を指します。
この制度によって、過去に起きた牛肉偽装事件のような事が再び起きない様にする為に
導入されました。
産地名に下に10桁の数字が記載されていますが、この数字はスーパー等で売られている牛肉のパックにも記載されています。
(独)家畜改良センターが管轄する「牛の個体識別情報」という所に入力すると
個体識別番号 | 出生の年月日 | 雌雄の別 | 母牛の個体識別番号 | 種別 |
---|---|---|---|---|
1500815798 | 2015.11.16 | 去勢(雄) | 1341972186 |
【異動情報】
異動内容 | 異動年月日 | 飼養施設所在地 | 氏名または名称 | ||
---|---|---|---|---|---|
都道府県 | 市区町村 | ||||
1 | 出生 | 2015.11.16 | 長崎県 | 平戸市 | 森田 増実 |
2 | 転出 | 2016.07.21 | 長崎県 | 平戸市 | 森田 増実 |
3 | 搬入 | 2016.07.21 | 長崎県 | 平戸市 | 平戸口中央家畜市場 |
4 | 取引 | 2016.07.21 | 長崎県 | 平戸市 | 平戸口中央家畜市場 |
5 | 転入 | 2016.07.21 | 宮崎県 | 西都市 | (株)サイトーファーム |
6 | 転出 | 2016.08.25 | 宮崎県 | 西都市 | (株)サイトーファーム |
7 | 転入 | 2016.08.25 | 宮崎県 | 児湯郡新富町 | (株)サイトーファーム 新富牧場 |
8 | 転出 | 2018.05.15 | 宮崎県 | 児湯郡新富町 | (株)サイトーファーム 新富牧場 |
9 | 搬入 | 2018.05.15 | 福岡県 | 太宰府市 | 九州協同食肉(株) |
10 | と畜 | 2018.05.16 | 福岡県 | 太宰府市 | 九州協同食肉(株) |
出生年月日から母牛、そしてと蓄までの経緯が表示されます。
ここまでしっかりとした情報管理がされるわけです。
輸入牛を国産と偽り国から補助金を搾取した事件や、BSE(狂牛病)が発症した肉を
販売にかけたりした事件などによる、消費者の牛肉への信頼を取り戻す策として
の導入でしたが、むしろ最終消費者の前段階(出生からと蓄までの業者)にとっての
詐称が出来ないようにする為のシステムです。
そしてこのシステムで重要な所は、もし何か不足の事態が判明したとしても
どの牛でどの段階で「事故が起きたのか?」をある程度、突きとめる事が可能
となる所です。
もしどこかのスーパーで買った牛肉に問題が起きた場合。
パックされていた牛の「牛肉固体番号」から、どの牛に問題があったかを探し出し
問題のあった牛の販売を即座に中止させることが出来ます。
要は、疑わしくば全て駄目!ではなく、これは駄目でもこれなら良い!になる。
私自身の考えとして、お客様にお出しする素材は搬入業者とよく話し合った末に
一先ず合意をします。 それからは搬入物を見てその都度都度感じた事を言います。
大体そのような事を1年以上繰り返しますと、程度の低い品を持ってくる事はなくなり自然よい素材や良い情報が入ってくるようになります。
しかし、搬入業者も人です!
品がよければ得意げに見せつけ、ちょっとの時は口数は減り足早に帰ろうとします。
搬入業者の中には、私より若い子もおれば年配の方もいますし、肩書き持ちもいます。
皆自分の仕事の為に、私の細かい要望を元に提案をかけてくれています。
折り合えない部分もあれば、望み以上の提案もあったり、繁忙期の都合も絡んでくるので中々全てに良し!にはなりませんが、業者さんとの話で感じることは
みんな良い仕事をして人に喜んでもらいたい!
のではないのかなぁ~!と思います。
私もその内の一人です。
お客様に良い品を提供してよろこんでもらいたいのです!
牛肉を無駄なく使うには?
私の牛肉の処理の仕方はこんな感じです。
ちなみにこれは、先ほどの肉とは違います(和牛のかぶり部位)
(少し前に仕込んだ時の写真です)
ですが、この肉同様に筋を脂部分を綺麗に取り除きます。
肉の塊にもよりますが、脂と筋が付いていた元の状態の20%以上は目減りします。
わかりやすく数字で表すと
1k=1万円の塊肉10K 購入 ⇒ 10万円で10k肉 ⇒ k= 1万円
10k=10万円から脂・筋を除き正味8kに ⇒ 10万円で8k肉 ⇒ K=12,500円
同じ肉でもK単価は2500円も高くなります。
当然、販売価格にも影響していきます。
ですが、純粋に肉の味わいを召し上がって頂くには
脂と肉の間にある筋は非常に邪魔なのです!
脂と身と筋ではそもそも融点が違うので、同時に全てベストな状態では焼けません。
あちらを立てれば こちらが立たず・・・
であれば
純粋に肉の持つ美味さを味わってもらおう
との思いからの仕事になります。
では脂と筋は捨ててしまうのか?
というと、そうではありません。
まず脂ですが、通常お出ししている料理のソースとして使っています。
- 鍋に脂をいれ火にかける
- 次第に脂が溶けてくるので、筋のある切りくず肉を炒める
- 玉ねぎ荒切り、切り端人参、長ネギの青い所、生姜の皮などを炒める
- 酒・みりん・濃口醤油・100%果汁のりんごジュース・砂糖を入れる
- 沸かさない状態で、3割ほど煮詰める
- たまり醤油・練り胡麻(白)を加え味の調節をする
- 按配よければ目の細かいザルで濾していく
最終仕上げの段階を書くのは控えますが、かなり旨みの濃いソースができます。
副次的にスジ肉や溶け切らなかった脂の煮付けも出来上がります。
これは賄いに落としたり、もう一手間かけて料理に仕立てたりもしています。
牛肉だけではなく、野菜の切れ端など大事に保存しておき
無駄が出ない様に工夫することは、コストの軽減にも繋がり財布に優しくなります。
最後に
この記事が皆様にとって、牛肉知識の一助になれればうれしく思います。
牛トレサービリティーで、安心した牛肉が食卓に並ぶことを願います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。